芸術品の宝庫

目もくらむような芸術品の宝庫だと聞いていたエルミタージュ美術館は、外側から「こちらがエルミタージュ美術館でございます」と、観光ガイドが説明するだけで素通り、中を見せてもらうことはできない。ボリショイ劇場も、レニングラード劇場も、筋骨隆々のガードマンに守られていて、中を覗こうとするだけで射殺されそうな勢いだった。日本を出る前に、ソ連に行くならシームレスのストッキングを持っていくといいと教えてくれた人があって、半信半疑、当時売り出されたばかりの縫い目のないストッキングを二○足ぐらい持っていったのだが、それが本当に役に立った。シベリア鉄道でも、ホテルでも、これを渡せば、ツンヶンした態度のメイドが急にニコニコ顔になって、トイレに行けば、手拭き用のタオルを持って待っていてくれた。その後も困ったときにはシームレスで、タクシーの運転手さんや観光ガイドさんに便宜を図ってもらったものである。町には、色白の金髪美人がいっぱい歩いていたが、彼女たちの足元を見れば、なるほど縫い目のある靴下だ。おかげで、普通は観光客が見せてもらえないような、建物の奥の方まで見せてもらうことができたのである。社会主義、共産主義の理想を追いかけてソ連に入国した私だが、皮肉にもこんな所でも資本主義の恩恵を受けていたのである。

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